今様 ヲトメ
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 



今時はそれは性能のいい、しかも薄手の、
機能性下着とかアンダーウェアとかいうものが、
様々なタイプで出回っていて。
校則には触れないように、
でも微妙に暗黙の了解ぽいそれ、
スカートの下へハーフパンツとか、
何の私はジャージそのものとか、
楚々とした制服の下で実は、
なかなかにやんちゃな防寒態勢を取ってた楽しい冬は、
もはや遠くになりにけりなんでしょうかねぇ。


こちらの女学園の制服は、
かっちりとしたその見栄えが
どうとも崩しようのないセーラー服なものだから。
10月からの衣替えから長袖へ移行し、
その後、木枯らしが吹いたとの報告があり次第、
コートを着始める生徒が現れる。
いつからでなければダメという規定はなく、
規定と言えばのカーディガンや、
運動着としてのウィンドブレーカやグラウンドコートもあるので、
そうそう早くからもこもこと着膨れるお嬢様は少ないものの、

 「でも、
  あんまり大きな声では言えないけれど、
  ここって校舎が古いですしね。」

 「そうそう、それにオイルヒーターを使い始めるのは
  期末考査と同時の、12月からですものね。」

 「あああ、
  嫌なものを連想させないでよ、ヘイさん。」

 「マラソン大会。」

 「久蔵殿〜〜〜。」

期末考査よりはマシかと思ったらしい紅ばらさんの気配りだったが、
白百合様にはそっちも痛かったようで。
そう、こちらの女学園の冬の初めに開催されるのが、
全学年・全生徒が参加する、ご町内マラソン大会で。
特に長距離ということもない、
いかにもお嬢様学校規模のそれだというに、
それでも長い距離をただ漫然と走るだけなんて嫌々と、
当女学園が誇る 韋駄天娘の片方、
草野さんチの七郎次お嬢様には、途轍もなく迷惑な風物詩ならしい。

 「体力も粘り強さも、
  申し分なくお持ちですのにねぇ。」

さすがにお外でのお弁当はそろそろ寒いとあって、
今日は美術室の窓辺の陽だまりで、
各々持ち寄った御馳走を交換し合いつつのお昼を、
これでも十分楽しげに食しておいでで。

 「持続力と根気は別物ですよ。//////」

ひなげしさんが暗に何を言いたいか、
判っていればこそ、
少々頬を赤らめておいでの白百合様。
というのも、

 『……あっ。お待ちなさいっ!』

それは ほんのつい先週末のこと。
いかにも中学生だろう、
婦人用自転車に二人乗りという男の子たちが、
初老のご婦人の提げていたバッグを追い越しざまに引ったくったのを、
こちらはすれ違いざまという格好で、まんま目前にて目撃した白百合様。
久蔵殿と一緒に
平八が待つ“八百萬屋”へ向かうところの道すがらでの一大事。
土曜で私服じゃあったが、
…つか、だったからこそと言った方がいいものか、

 『大丈夫ですかっ。』

まずはと、引っ張られて転倒しかけたご婦人を
駆け寄って助け起こした七郎次だったが、
何て乱暴なことをするのかと肩越しに振り返った先、
道路のうえに落ちてた小さなものを、
その自転車が無造作に踏んでったのが、

 『な…っ

他でもない白百合様の逆鱗へ触れた。
七郎次の提げていたバッグについていた、
可愛らしいウサギのマスコットだったのだが、

 「島田の趣味だったか。」
 「〜〜〜〜久蔵殿っ。////////」

提げ緒が傷んで弱っていたものが、駆け出した弾みで千切れたか、
さほど交通量はない日常道路の上へと飛んでしまったその上を、
逃げ去りがてらに踏みにじって行った連中だったものだから。

 『…………………
許さんっっ

久蔵いわく、

 『あんな恐ろしいシチは初めて見た』し、
 『もう二度と見たくはない』のこと。

日頃の瞬発力で抜きん出ている紅ばらさんが
おばさまは七郎次が見ているからと判断し、飛び出そうとした機先を制して。
キャメルカラーのバックスキン、
足首の縁回りにはボアが暖かくはみ出す、
それは愛らしいハーフブーツでザクッと大地を踏みしめると。
さらっさらの金の髪、風に舞い上げ、
ツィードのフレアスカートをひるがえし、
あっと言う間に駆けてった七郎次だったそうで。

 “淑やかな普段と打って変わって
  怒らせたら怖いという話は、色んな人へ聞きますが。”

七郎次の正義感とか手ごわさとか、
ようよう知っているはずな久蔵殿が、
二度と見たくないとまで言ったからには、
随分と鬼気迫るものもあったのだろうし。

 『…一体、何があったのだ?』

追っ手に気づいて全力疾走したらしきママチャリに、
見事、10分強で追いついてしまい。
どっから出したのか(笑)
ポールのような長い得物をぶんぶんと輪を描くよに回してから、
まずはと後方から後輪を一気に蹴手繰り、
乗ってた二人ほどを路上へ吹っ飛ばすと、

 『覚悟なさいっっ

さすがミッションスクール通いのお嬢様、
悔い改めよとのお仕置き、
びしばーしっと下してお縄にした手際のよさよ。

 「自転車の、
  しかも全力疾走の10分っていったら結構な距離でしょうに。」
 「だからっ。///////」

全力疾走だったもん、長距離じゃないもんと、
言い訳にしては何だか説得力のないお言いようをした白百合さんだが、
その話を蒸し返されると、白いお顔が真っ赤になるのはあのね?

 『判った判った、もう泣きやめ。』

またお転婆をしおったかと飛んで来た勘兵衛だったが、
叱られる前に、それどころじゃありませんものと、
人目もかまわず、わあわあと泣き出してしまった彼女であり。

 『だっ、てっ。あのうさぎっ、かんべ、さまがぁっ。//////////』

知り合ってから初めてのお誕生日、の数日後。
それは知らなんだと大慌てで、
目についた雑貨屋の店頭で売られていたマスコットを
とりあえずと買ってくれたものだったとか。
まだ“記憶”は完全には戻っていなかった七郎次だったが、
あの風体で かわいいお人だと印象づけられた切っ掛けでもあったし、
何より初めてのものを踏まれたなんてと、
どれほどのお怒りが沸騰したかも想像するに如くはなく。

 「…だから、
  あんな想いして駆け出したのと一緒に出来ませんというに。///////」

はいはいごめんなさいと平八が細い猫目をなお細め、
久蔵が三木家お抱えシェフ特製の射貫き豆腐をお裾分け。
そんなして宥められてる白百合様の、お弁当用ポーチには、

 『ああもう泣くな。』

わんわんと泣き止まないお嬢様を宥めようとした警部補殿が、
やっぱり慌てて買い求めた、
今度は仔猫のマスコットが にこりんと提げられていたそうな。






     〜Fine〜  13.11.18.


  *怒らせる方向にも程があったようです、今回は。
   一応カワイイを目指したつもりなんですが…。

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